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菌根菌は何をしてくれるのか
それは【植物の生育を促進させるチカラ】です。
肥料以外にも必要なものってなんでしょうか?
土壌の物理性(硬さ、水の浸透のしやすさなど)?
もちろん大切ですが、さらに大切なことには
根と共生するお友達“菌根菌”の存在です。
森の土にはスプーン1杯に数キロ分に広がる分の菌糸が含まれています。その菌糸は土の中を走りまわり緻密なネットワークを築いています。
菌根菌の働きとは
根が“菌根菌”に感染して共生することで、次の能力がアップします。
“頑丈で、強くなります”
“自分以外の仲間たちから助けてもらえる“
具体的には以下のような能力を身につけることができます。
- 養分(特にリン酸)と水分吸収を拡張
- 塩、凍結、乾燥ストレスへの耐性が向上する
- 重金属の濾過などを行い環境への耐性が向上する
- 有害な菌類などの侵入を防ぐなど
このように手厚いサポートが受けられます。
そしてもうひとつ、
“自分以外の仲間たちから助けてもらえる“です。
スマホを手に入れて、ネットワークとつながり、世界が広がるようなイメージでしょうか。
森のインターネットに接続して、木どうしの情報交換や仲間との養分分配の調整、そして弱った仲間に養分供給などをしてくれる社会保障のような役割を獲得できます。※ただし、菌根菌に利用料金を支払う必要があります。あとで説明します。
どうして、このようなことができるのでしょうか?
※共生していない通常の根
菌根菌の正体とは
キンコンキン?キンコン?キンコンカン?分けがわからなくなりそうですね。
簡単にいうと、
根に菌がついたら、“その根”が”菌根”
“根にくっつている菌”が“菌根菌”
です。
“菌根”とは、根の細胞に菌の菌糸が入り込んでいる“根”のことをいいます。
“菌の細胞”と“植物の根っこの細胞”の複合体のことです。
その入り込む菌のことを、菌根菌(VA菌根菌、AM菌、アーバスキュラー菌根菌)といいます。
糸状菌のことでカビやキノコの仲間です。
この菌根菌は、植物の根にくっついていないと死んでしまう性質である“植物絶対共生菌”です。
根だけでは本来、まわりに多くの養分があったとしても根毛が吸収できる範囲は限られています。 “菌根菌”は植物の根を包み込み、植物の根よりも細いため内部に入り込むことができます。そして菌糸は植物体の根圏領域を越えて広がっていきます。
こうして、根の届かない領域のリン酸などを吸収して植物に供給することができます。
※菌根菌と共生している根
菌根菌のお友達ネットワークは【かなり広い】
さらに、すごいことに菌糸がひろがることで他の菌糸につながり、また他の木の根にもつながることで地中のネットワークを形成するのです。1つの菌が数百年で数平方キロメートルもひろがることもあります。
いわば“森のインターネット”です。
菌糸は1種類だけの木に結びついているわけではなく、ほかの種類の木ともつながっています。
菌根菌は、植物が海から陸へ上がるころ四億数千年ほど前から存在していたといわれ、陸上植物の約80%に共生していると言われています。また、この共生関係が、相手をあまり選ばない宿主特異性が低い性質です。菌の種類としては300種以上確認されています。
ちなみに、マメ類の根に寄生して空気中の窒素を固定する「根粒菌」とはちがいます。根粒菌は細菌(バクテリア)です。同じではありませんが、菌根菌とは互助作用を持つことがあり、多重共生することがあります。
菌根菌は、お友達の幅がかなり広いということですね。
菌根菌ネットワークの役割
このネットワークでどのような情報が交換されているかは分かりませんが、仲間同士で弱った木への養分の分配や他の植物にも分け与えることもあります。根がこのネットワークにつながっていることで、切り倒された古い切株が数百年生きながらえている例もあります。こうした枯れてもおかしくない状況である弱者を、このネットワークで支えているのです。
どうしてでしょうか。
この1本が枯れることで“間”が作られ、森全体のネットワークに亀裂をいれてしまうことになります。このことを懸命に防いでいるようです。ネットワークを切断させまいと助け合うことで森全体の存在を守っているのでしょう。この現象は天然の森林でしか見られず、植林地では見られません。
人間社会でも同じようなことがありますよね。地域に根差したコミュニティへの参加のようなものでしょうか。見知らぬ地域にいくことは、その菌糸ネットワークからはずれることになるに似ているかもしれません。とはいえ、人間でしたら今の時代はネット社会でつながることも可能ですが。
だけど、菌根菌サービス料金は高いです。
この素晴らしいサービスを受ける代わりに、植物は光合成で得た光合成産物(炭素源、糖や脂肪酸など)の3分の1ほども菌根菌に与えています。それでも得られるサービスの高さに木は支払いを受け入れているのでしょう。この様にお互いに利益がある共生関係を「相利共生」といいます。
菌根菌の種類
菌根菌は、7つのタイプがあります。
- アーバスキュラ―菌根菌(AM菌)
- 外生菌根菌
- エリコイド菌根
- 内外生菌根
- アルブトイド菌根
- モノポロボイド菌根
- ラン型菌根
そのうち、次の2つのタイプについてご紹介します。
・内生菌根菌・・・菌糸が根の細胞壁内まで侵入するタイプ
→VA菌根菌、AM菌、アーバスキュラー菌根菌
・外生菌根菌・・・菌糸が根の皮層細胞の間に侵入するタイプ
→EcM菌根
このややこしい名前について解説します。
菌根菌のなまえ
まずは、内生菌根菌の名前についてですが、(VA菌根菌、AM菌、アーバスキュラー菌根菌)とありますが、同じことを示しています。
・VA菌根菌・・・もともとはこの名称が使われていました。
根の中に次の2つの器官をつくっています。
嚢状体(Vesicle)+樹枝状体(Arbuscule)=VA菌
その頭文字から“VA菌根菌”と呼ばれていました。
・AM菌もしくはアーバスキュラー菌根菌・・・近年はこの名称が使われています。
樹枝状体(Arbuscule)+菌根(Mycorrhiza)=AM菌
AM菌の仲間は300種ほどと推定されていますが、多くの種は樹枝状体のほかに養分貯蔵器官と考えられている嚢状体(vesicle)を形成します。
しかしながら、近年すべての種が“VA菌根菌”のように嚢状態(vesicle)を形成するわけではないことがわかったため、現在では“アーバスキュラー菌根菌またはAM菌”という名称が使われています。
・EcM菌根・・・AM菌とは異なる感染方法
AM菌とは違って、菌糸が根の細胞壁の内側に侵入せず細胞どうしの間に菌糸を進入させる外生菌根(Ectomycorrhiza)のことです。菌は植物の根の周りを覆うことで“菌鞘”を形成します。網目状構造(ハルティヒ・ネット)を形成し、マツタケなどのキノコを形成します。
※ショウロ(松露)イグチ目ショウロ科ショウロ属 二針葉マツ属の細根に外生菌根を形成
※チチアワタケ(乳粟茸)イグチ目ヌメリイグチ科ヌメリイグチ属 二針葉マツ属(まれに五針葉)の細根に外生菌根を形成
※有毒・・・テングタケ(天狗茸)ハラタケ目テングタケ科テングタケ属 アカマツ、コナラ、クヌギ等 外生菌根菌を形成
※有毒・・・シロハツモドキ(白初擬)ベニタケ目ベニタケ科ベニタケ属 シイ、コナラ樹 外生菌根菌を形成
菌根菌を利用する【菌根菌資材】
現在、いくつかの“VA菌根菌資材”が販売されています。
※サクラ用樹勢回復用資材
三大栄養素のなかで、最も吸収しにくい要素...それは、リン(P)です。
なぜなら、植物の根は数ミリ以内の可給態リン酸しか利用できないのです。
しかも、リン酸は土壌中の移動が遅い。なぜかというと、土壌中の鉄やアルミニウムと結合しやすく、そうなると土壌に固定され難溶性となります。加えて、日本の火山灰土壌はアルミニウムを多く含んでいます。そして、1度消費された根のまわりには、リン酸が欠乏状態となります。
逆を言えば、根から離れたところには、リン酸が残っているということになります。
そこで、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は、根から菌糸を広げてリン酸を植物に供給します。
菌糸が根の表面から25cm以上離れたところまで到達している例もあります。この働きを利用して、農業においてアーバスキュラー菌根菌(AM菌)が含まれる微生物資材として、政令指定された土壌改良資材が販売されています。
多くのネギやタマネギなどの農耕地の土壌では、過去に投入されてきたために高濃度の可給態リンが集積しています。ここで“菌根菌資材”を投入することで、リン酸施肥を減らすことができます。
ただし、高価です…
“菌根菌資材”を投入するよりも“リン酸肥料”を使用する方のコストが割安なため、あまり普及してこなかった経緯があるためです。
また、“菌根菌資材”を投入する際に、その圃場の“可給態リン酸濃度が高い”とその効果が発揮されないことも分かっています。その際は、もともと土着しているAM菌の増殖、感染を促すために粉炭を入れることでその効果が期待できるともされています。
※菌根菌資材の施用により、共生している根
このように、共生のメカニズムが不明な部分や植物種により異なる効果性、その菌の増殖方法など解決されるべき課題が多いことも確かです。
また、日本ではリン酸肥料の原料であるリン鉱石はほぼ輸入に頼っている状態で、世界的に枯渇し価格高騰につながっています。
こういった状況からもリンは限りある資源であるため、これからも注目・期待される研究分野です。
ところで、樹木においてはサクラやアカマツ、クロマツ用の樹勢回復に使われる菌根菌資材も販売されています。
ご参考まで・・・
参考文献・図書
- ペター・ヴォールレーベン(2018)「樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声」,ハヤカワ・ノンフィクション文庫p69
- (2014)最新・樹木医の手引き(改訂4版)一般財団法人日本緑化センターp272-280
- 斎藤 雅 (1998)「土壌と植物をつなぐVA菌根菌」化学と生物36 巻10 号
- 斎藤雅典(2005)土壌養分の代謝に関わる微生物の有効利用-菌根菌の有効利用について- 農研機構<https://www.naro.go.jp/training/files/2005_14-04.pdf>
- 俵谷圭太郎 (2012) 「リン酸資源の枯渇に対応したリン栄養研究 : 4. 土壌微生物によるリン酸施肥削減」日本土壌肥料学雑誌/83 巻5 号
- 袴田哲司・山本 茂弘(2008-03)「VA菌根菌資材とスギ炭を施用した広葉樹苗の成長静岡県農林技術研究所研究報告」,静岡県農林技術研究所1号,p.79-85
- 袴田哲司・山本 茂弘(2010)「ミズキ苗の成長に対する菌根菌資材と籾殻くん炭の効果」静岡県農林技術研究所研究報告『発行元 静岡県農林技術研究所』巻号ページ3号,p.57-61(2010-03)